Q and A

200973日()

ブル博士Q & A

 当プロジェクトでは、英国レスター大学司法心理学部教授であるレイ・ブル博士にアドバイザーとして助言、情報提供をしていただいています。ブル博士は、被疑者に対する警察官の面接や子どもを含めた被害者の面接技法に関する研究の第一人者であり、英国のガイドライン作成に貢献されました。そこで、司法面接のあれこれについてご質問し,以下のような回答をいただきました。


Q
何歳の子どもであれば,面接できるでしょうか。
A
6歳であればできます。3歳半〜4歳の子どもへの面接は,豊富な経験がなければできません。

Q
子どもの言語表現能力は問われないのでしょうか。例えばIQはどうでしょう。
A
子どもの能力は,面接のなかでだけ査定します。IQテストの結果などは,予断となる可能性があります。IQが低くても面接ができるケースもあります。なお,IQと記憶能力には相関がありますが,面接者の技術があれば,低いIQの子どもでも面接に応じることができます。

Q
子どもに開示してもらうには,どうすればよいでしょう。
A
どのように開示させるかは,ガイドラインを参照してください。子どもは虐待についてはたくさん話しても,親のことは愛しているものです。そのため,最初はあまり話さず,親を守ることもあります。パパは刑務所にいくの?と子どもが聞くこともあります。そのようなときは「悪いことをした人は,刑務所に行かなければならないが,まずは何があったか明らかにする必要がある」といったことを伝えます。

Q
子どもが虚偽の証言をすることはありますか。
A
子どもはfalse story(嘘の物語,ファンタジー)をつくる,とよく言われます。しかし,英国ではそのような事例はほとんどありません。こういった申し立てによる誤起訴は1、2%であり,多くは離婚訴訟において母親が子どもに嘘を吹き込むことによって生じます。「虚偽」だと主張された事例については,録画を見直してみるとよいでしょう。子どもが,途中までは自分の言葉で話していたのに,突然問題の出来事について大人の言葉で話しはじめたりすれば,その可能性があるかもしれません。しかし,そのような事例はたいへん少ないです。

Q
インテイク(面接に先駆けての情報収集)においては,どのような情報を得ておくのがよいでしょう。
A
面接者が事件について,事前にどの程度の情報を知っておく必要があるか,という問題は,英国,米国等でも議論されています。事件に関する知識が多いと,子どもを誘導しやすくなってしまうかもしれない,という懸念はあります。しかし,総論としては,面接官はすべてを知っている方がよいようです。面接の訓練を十分受けていれば,事前の知識によって誘導が増えるということはありません。
 ただし,訓練不足の面接官は,知識をもとに推測をしてしまう可能性もあり得ます。被面接者が幼児である場合,事前情報がないと,状況を理解するのが困難になります(例えば,子どもが家庭内の人に虐待を受けていたとしても,家庭内の情報を知らないと,人は「外部の人」にされたと解釈してしまいがちです)。また,子どもは家族による虐待のことを話しにくい,ということもあります。面接官が虐待者が家庭内にいる可能性を認識していれば,その子どもの長い「間(沈黙)」も理解できるかもしれません。しかし,事前の情報を得ることで何か問題があったとしても,録画をしておけば,後で確認することができます。面接官が事前情報を使って間違いを犯すこと(誘導するなど)はあり得ますが,それはたいてい,面接の終わりの方で起こります。
 また,事前の情報を得た経験の浅い面接官が「お父さんがやったんだね」などと言ったとしても(これはしてはいけないことですが),もしもこの発話により,子どもが自発的に話し始めたとすれば,それは悪くないともいえます。

Q
インテイクは誰がやればよいでしょうか(面接者がやるのがよいでしょうか)
A
うまいラポールがとれればその方がよいでしょう。ただし,事前情報は大人(親等)から得る必要があります(つまり,子どもから聞くのはよくありません)。

Q
ノートテイキングはすべきでしょうか。
A
面接では,キーとなる言葉を記録する程度でよいでしょう(不明なことを記録しておき,あとで確認するため)。ノートをとる場合は,どうしてノートをとるか,子どもに説明をする必要があります。例えば,「忘れるといけないからノートをとるけれど,いいかな」等のように。ノートをとると,どこが重要かを子どもに教えることになる,という懸念もありますが,法廷はノートテイキングについては,あまり気にしていないようです。

Q
ドールや描画の使用についてはどうお考えですか。
A
ドールは名称の明確化にのみ用いるのが原則です。ただし,子どもに体の動きを示させるために用いることもあり得ます。例えば,「そして,その人は私のなかにいれた」 と子どもが言ったとします。このことについて,もっと詳しく話してほしいというときに,「これがあなた,これがもうひとりの人」と人形を示し,情報を得ることもあります。しかし,このような方法を用いるのは,面接の10%くらいであり,訓練を受けていない人がこのような方法を用いるべきではありません。
 絵,例えば子どもの身体を描いた図は棚にはいっています(つまり,外には出しておきません)。子どもが「ボーボー」などといったときに,この用紙を示し,説明してもらうことがあります。7,8歳はシンボルの理解に問題があるかもしれませんが(描かれたものが実物を代表していることが理解できない等),大きい子どもであればその問題はないでしょう。絵は,子どもに描かせてもよいですが,自分では描けない場合もあります。場所,誰がいたか,ベッドのどこにいたか等であれば,4歳でも描けるかもしれませんが。なお,研究ではありませんが,描画が「文脈の再現」を助ける,という報告もあります。
 私(ブル教授)のところでも,子どもを対象に、描画あり条件と描画なし条件で、どれくらい情報提供に差があるかを調べる実験を6つ行いました。しかし,差はありませんでした。けれども,だからといって「描画が悪い」という証拠はありません。逆に,より多く思い出せるという研究もあります。Grossらの研究では,子どもに絵を描かせると,子どもたちはより多く報告しました。

Q
録画する際に重視すべき映像は何でしょうか。
A
裁判官や陪審は子どもの顔を見たがります。そのため,子どもの顔についてはできるだけ正面の映像があるとよいでしょう。ただ,面接官が身振りで誘導していないことを示すには,面接官も映っている方がよいかもしれません。英国では面接官の映像はそれほど重視されません(声で様子がわかるので)。なお,英国では歴史的に部屋全体と顔の映像の2種類の映像を録画しますが,このことにこだわる必要はありません。

Q
DVDは複製してもよいのでしょうか。
A
英国では,面接時にDVDを2枚同時に作成します。1枚は封印され,1枚はワーキング用として用います。英国では,これ以外の複製は作りません。

Q
録画が批判されることはありますか。
A
裁判官や弁護士は録画を見て批判します。けれども,面接者が十分な訓練を受けていれば,面接はよくできますから,批判は少なくなるでしょう。司法面接が始まった当時,3,4年は面接のレベルは中程度であり,誤りもありました。けれども今はたいへんよい状態で,間違いも少ないといえます。初期においては,弁護士による批判を受け入れ,そのような批判がなされないようにと,訓練を改善するのに用いました。

Q
録画面接の効果について教えてください。
A
子どもがたくさん話しているビデオを裁判官が見た場合,それはたいへん効果的です(多くの裁判官は,子どもには報告する能力がない,と思っているので)。
 また,ビデオがあるおかげで,スムーズに示談や司法取引が行われることもあります。例えば,事件が法廷に行き,被疑者が性虐待で有罪になったとすると,刑期はたいへん長くなります。また,刑務所では他の囚人から攻撃される可能性も高いのです(子どもへの性虐待は恥ずべき犯罪だと考えられているため)。そのため,弁護士は,録画を見て虐待が実際に起きたであろうと考えると,被疑者に有罪の主張をする(plea guilty:罪を認める)ことを進めます。そうなれば16年の刑期が8年になるなどします。

Q
面接者に対する反対尋問が行われることはありますか。
A
反対尋問はよく行われます。面接官が訓練を受けていれば,「なぜ,それをやったか説明していたか」を説明することができます。「経験にもとづいて,こうやりました」はだめ。「訓練でそう習ったから」と言えば,訓練者に説明が求められることになり,これもよい応答とはいえません。「研究の結果,そうなっているから」と言えればよいのです。どれくらいの知識が必要か,ということで言えば,例えば経験10年の警官は第5のレベル(英国警察・面接技能の最高レベル)となります。しかし,理論は知らなくても,司法面接の訓練を受けていれば,反対尋問にもよりよく応じることができます。訓練がないよりは,ずっとよいです。

 以上,書き起こしではなく,メモをもとに補足的な情報も加えながら再構成しました。質問の順序はこの通りではありません。
(文責 仲)

このQ & A は,newsletterのvol.3に掲載された物です。
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司法面接支援室 : 立命館大学 ・ 大阪いばらきキャンパス(OIC) ・ OIC総合研究機構 / 総合心理学部