児童虐待や

子どもが被害者、目撃者となるような

事件、事故では、

子どもの安全を確保した上で、

できるだけ早く、

何があったのかを確認する必要があります。

しかし、心身共に深い傷を負った子どもにとって、

被害を繰り返し話すことは、

非常に大きな負担を伴います。

そんな中、日本各地で、

子どもの負担を最小限に抑えつつ、

子どもの体験をありのままに話してもらうことを目的とした

司法面接という取り組みが行われ、

その成果が、今、注目されています。

みなさんは司法面接を知っていますか?

日本での司法面接の広がりと必要性

2015年10月、

厚生労働省、警察庁、最高検察庁が、

児童相談所、警察、検察に、

被害を受けた子どもへの面接について、

連携を強化するよう勧める通知を出しました。

この通知の目的は、子どもの負担を減らし、

子どもの体験をありのままに話してもらえるよう、

児童相談所、警察、検察が協力することです。

この通知をきっかけに、

司法面接と呼ばれる方法が

広く活用されるようになってきました。

以前は、被害を受けた子どもに対し、

児童相談所、警察、検察が

それぞれ別々に話を聴いていました。

つまり、子どもは、

何度も何度も話をしなければならなかったのです。

しかし、最近では、関係機関が協力し、

面接の回数をできるだけ少なくする

取り組みを進めています。

この面接では、

子どもへの誘導や暗示を避けた、

司法面接のトレーニングを受けた人が

代表して、子どもから話を聴きます。

このような取り組みを

協同面接 又は 代表者聴取 と呼ぶこともあります。

司法面接導入とその仕組み

-仲真紀子-

司法面接の概要や、

今なぜこの方法が必要とされているのかについて、

立命館大学の仲真紀子教授にお話をお聞きしましょう。

私は子どもの記憶の発達や

コミュニケーションの発達の研究をしています。

子どもから適切な報告を得られなかったために、

子どもを守れなかったり、事件が解決しない、

そんな事案に気がつくようになりました。

たとえば、日本でもあることですが、

イギリスのクリーブランド事件

ここでは多くの子どもが

適切な聴き取りができなかったために、

親から性的な虐待を受けたということで、

分離保護された。

しかし、最終的には、

子どもが話したことが本当ではなかった

ということが明らかになって、

全員お家に戻された。

そんなことがありました。

こういった事案をみてみますと、

子どもさんの記憶の発達という観点から見て、

どうしても、誘導・暗示にかかりやすい。

大人が

「触られた」とか「何かされた」

というふうに聴いてしまうと、

子どもさんたち

「あった」とか「うん」

というふうに言ってしまうことがあります。

また、大人が心配のあまり、

何度も何度も子どもさんに確認する

ということになりますと、

子どもさんは、

精神的な二次被害を被るようようになってしまう。

ということがあります。

こんなことから、諸外国では

司法面接と呼ばれる方法が

開発されるようになりました。

これは、できるだけオープンな質問。つまり、

「何があった?」「それからどうした?」

「そのことをもっと話してください」

こんな風なかたちで、

子どもに主導権を与えて、たくさん お話をしてもらう。

そういった方法です。

そうすることによって、

誘導・暗示をかけない聴き取りを行う。

また、多機関(福祉と司法)が連携して話を聴くことで、

何度も何度も、福祉で聴いて司法で聴いて、

っていうようなことをしないで、

1回でお話を聴いて

それを、正確に録音・録画しておく。

こういうことによって、

子どもさんの話を適切に聴こう。

こういった取り組みが、

司法面接ということになります。

こういった方法が開発されていますので、

専門家の先生方、みなさまがた、

子どもさんと携わる多くの方々におかれましては、

もしも、疑いがあったならば、

根掘り葉掘り、あれこれ聴きすぎることなく、

専門家に伝えていただきたい。

そうすれば、専門家が連携をとって、

こういった方法によって、子どもさんからお話を聴く。

ということが可能になるかな、と思います。

それではここで司法面接の仕組みをご紹介します。

司法面接は、児童相談所、警察、検察などの

多機関の専門家チームで行います。

司法面接では、

面接室とモニター室の

2つの部屋を使用します。

面接室には、

子どもと面接者だけが入ります。

面接は、録音・録画され、その様子は、

モニター室で

リアルタイムで観察できるようになっています。

モニター室には、

児童相談所の職員、警察官、検察官などが入ります。

面接の前には、

これらの専門家がチームとなって、

入念に計画を立てます。

そして、面接中にも、

面接者とモニター室にいる専門家が、

チームとして協力して面接を進めます。

また、面接の後も、

子どもの安全のため、

連携を続けていくことが重要です。

このように、司法面接は、

子どもの負担を最小限に抑え、

体験をありのままに話してもらえるよう、

児童相談所、警察、検察などの

多機関の専門家チームが、

常に連携しながら行なっていきます。

専門家のお話

司法面接は、児童相談所、警察、検察などが

チームで行っています。

ここで、それぞれの機関の視点から、

司法面接の有効性について

お話をうかがいます。

まず、

検察で取り組んでこられた

酒井邦彦先生です。

私は、38年間の検事の生活の中で、

多くの児童虐待事件の裁判・捜査に

携わってきました。

そして、

子どもの虐待事件で一番大事なことは、

今ここにある子どもを守るということです。

子どもを守るためには、まず、

その子どもに何が起きたのか、というのを

知らなければなりません。

虐待が有ったのか?無かったのか?

それが、

全てのスタートポイントなんです。

だけど、子どもの虐待というのは、

家庭という密室で起きますので、

目撃者がいません。

それから、

素手で行われるので、

証拠が残りません。

どうしても、

子どもの供述に頼るしかないわけです。

だけど、

小さな子どもから話を聴くというのは、

すごく難しいことです。

子どもの心を開かせて、

真実を語ってもらうためのスキルが、

これが司法面接で、

今では、多くの検事が、

そのトレーニングを受けています。

それから、もう一つ大事なことは、

子どもが、お父さんやお母さんから、

乱暴を受けたことを話すというのは、

とても辛くて苦しいことなんです。

ですから、

できるだけ、それは

1回で終わらせてあげたい。

そのために、現在では、

警察、児童相談所、検察が

チームとなって、

その代表者の一人が

1回だけ聴くことで

終わらせるようにしております。

ですから、子どもを守るために、

学校や保育園、病院、地方自治体、

あるいは、地域のコミュニティといった、

子どもに関わるできるだけ多くの人に、

この司法面接のことを知っていただいて、

それを身につけて頂きたいのです。

次に、

警察で取り組んでこられた

田村正博先生です。

警察にとって、

被害者から事情を聴く、

とても大切なことです。

事情を充分聴けないと

事件にはできないわけですから、

ですが、片方で、被害者にとって、

事情を聴かれるのは、

大きな負担になります。

特に、子どもの場合は、聴かれ方によって、

供述も変わってくる可能性がありますし、

そして、何と言っても、負担も大きい。

そういった場合に、

子どもに対して聴き方をたいへん工夫されている

司法面接という考え方が広まったことは、

とても良かったと

私は思っています。

ただ、

捜査の現場のことになりますと、

証拠が揃わなければいけない。

それに必要な聴取を1回でやる。

もちろん、いろんな工夫がありますけど、

全て上手くいっているわけではありません。

その都度、みんなが今、知恵を出し合って、

一つ一つ乗り越えていきつつある過程ではないか、

そんな風にも思います。

ただ、

どうしても難しいケース多々あります。

子どもが話を積極的にできないケース。

どうやって、その子どもの心のブロックを、

乗り越えて行くんだろう?

そういう努力というのはですね、

実は、面接の場そのものも大事ですけども、

その以前、そしてその後、

全体を含めて取り組む必要があるのではないか?

そんなこと今感じています。

その上で、考えてみますと、

事情聴取をする人間だけが、

司法面接の考え方を知っていればいいというわけではなくて、

もっと幅広い警察の職員もそうですし、

関係機関の方も、

より多くの人が理解をしている。

それがとても大事なことだと、

今、私は思っています。

次に、

児童相談所で取り組んでこられた

山本恒雄先生です。

私は児童相談所で33年間仕事をしてきました。

1995年くらいから児童相談所では、

年齢の低い子どもの性暴力被害を聴き取りをどうするか?

という課題に出会っています。

2011年に厚生労働省がガイドラインを作る事になり、

全国の児童相談所が何らかの形で

フォレンジックインタビューというものを使う体制になりました。

同じように警察でも、

子どもからの性暴力被害の聴き取りを

一問一答の面接で聴取するという事は課題になってきて、

いよいよ児童相談所と警察・検察が

一緒に子どもの被害を聴くのにはどうしたら良いか?

という課題に取り組む段階になりました。

ただ、警察のほうは、

加害者の特定、加害行為の特定、加害者の処罰

という事に焦点がある子どもからの事情聴取です。

児童相談所のほうは、

子どもの被害の全容を聴いて、

そして

子どものそれからの人生をどうしたら良いか?

子どもの受けているダメージをどうしたら良いか?

その問題が起こった家族の調整をどうしたら良いか?

という事に続くための出発点であり、

治療の目的を確認するために、

被害を聴きます。

そういう意味で、

被害の聴き方の目的が、

若干違います。

例えば、刑事訴訟法は、

疑わしきは罰せず、

容疑者の利益優先という原則がありますが、

児童福祉法では、

疑わしきは子どもの保護、

子どもの安全が優先するという判断をします。

そういう意味で、目的が違う。

微妙に手続きが違うところが、

今後も調整の課題になります。

ただ、児童相談所も警察も検察も、

子どもから客観的な事実を聴く

という課題に関しては、

フォレンジックインタビューの手続きを使って、

子どもから聴くという事が一番大事という認識は

共通しているという事です。

最後に、

長年、司法面接に関する研究に取り組んで来た

立命館大学の仲真紀子教授です。

このように、それぞれの機関で

司法面接の取り組みが進んでいるっていうのは、

とってもありがたいことだと思います。

ですので、皆様方も、もしも子どもさんから

「これは言わないでね」とか「これは秘密だけど」

こんな風に打ち明けけられたならば、

大人一人で解決しよう、そんな風に思われないで、

専門の機関に積極的につなげていただければ、

と思います。

このように、児童虐待に関わる専門家が、

それぞれの立場・専門性を活かした

連携・協力を行っていくことが、

子どもたちの安全や権利を

守ることにつながっていきます。

プロジェクトの歩みとこれから

それでは、私たちのプロジェクトの説明をします。

私は、長いこと子どもさんの記憶の発達や、

親と子どものコミュニケーションなどの

研究を行なってきました。

ある時から、

子どもさんの供述の分析を依頼されるようになって、

たくさんの面接を観てきました。

よくできている面接も

いっぱいあるのですけれど、

なかには、

「叩かれたの?」「触られたの?」などの

具体的な質問が含まれる、そういった面接もあります。

こういった面接が行われると、

「叩く」「触る」といった言葉が、

子どもの記憶を汚染して、

適切な供述を得られなくなる。

こんなことがあります。

こういうことに、気がついて、最初は、

「ここは誘導になってますよ」とか

「ここは暗示になってます」と申していたんですけれど、

これでは、

子どもさんから良い(適切な)供述を

得ることができにくい。

どうすれば良いかと、考えていましたら、

2000年頃でしょうか、

イギリスで司法面接という方法に出会いました。

この方法は、

子どもさんに

面接でお話する時には、

「本当のことを話してください」

「わかんないことがあったら、わかんないって言っていいですよ」

といった、教示を行った上で、

そして、

話す練習をして、

そして、

本題をできるだけ

オープン質問を使いながら

聴いていく。

「何がありましたか?」「そして?」「それから?」

という風にして聴いていく。

こういった方法です。

こういった方法があるんだと知って、

こういうことに関する

研究・基礎研究なども たくさん行ってきました。

本を翻訳したりもしましたし、

論文も たくさん書きました。

けれども、なかなか、

これが実際に使われるっていうことには、

つながっていかない。

そういったことから、

2008年ころから研究助成などを受けて、

実務に携わっておられる先生方に

トレーニングをする、

というようなことも始めました。

今、用いていますのは

NICHDプロトコル と言いまして、

どんな風に面接をすれば良いかというのが

具体的な形で文言化されている。

そういう面接です。

そういうわけで、

トレーニングもしやすいし、

評価もしやすい。

ちゃんとそれに則ってやっていれば、

より良い報告が得られていることが測定しやすい。

そういう面接法でもあります。

こういった面接法をこれまでに、

警察の方々、児童相談所の方々、検事さんたち、

およそ8000人に研修をさせて頂いてきました。

また、効果測定というのも行いまして、

トレーニングを受ける

前と後では、

後の方が、よりオープンな質問が増えて、

より正確性の高い報告が得られる

ということも確認しています。

こういう形で

司法面接のプロジェクトに取り組んでおりまして、

今は、どのようにすれば多機関がより良く連携をして、

より正確に、そして負担をかけることなく

子どもさんから話を聴くことができるか?

ということに焦点を当てた研究を行っています。

こういう風にすることによって、

子どもさん本人だけでなく、訴えられた方も、

子どもさんや訴えられた方たちを支援する

福祉、司法、あるいは医療とか、心理支援の方々にとっても、

より良い情報を得ることができるのではないかな

と思っています。

この司法面接プロジェクトでは、

「通訳・仲介者のいる面接のあり方と支援」や

「司法面接と心理臨床の連携」についても研究を行っています。

それぞれの研究についてお聞きください。

私たちの研究グループでは、

子どもの司法面接法を応用し、

主に外国人を対象とした司法面接について研究をしています。

出来事や気持ちをうまく伝えられないことで、

助けを求められなかったり、

問題の発見や解決が遅れたりする事例は、

ことばのサポートが必要なすべての人に

共通する問題です。

通訳を入れたり、やさしい日本語で話すなど、

現場での実用性を備えた面接法やツール、

研修プログラムの開発を通して、

私たちは社会に貢献できるように

頑張っています。

私は、立命館大学の安田先生とともに、

子どもへの司法面接と心身のケアの

両立について検討しています。

被害を受けた子どもが安心感・安全感を持って

司法、福祉、医療や心理ケアの

手続きを進んでいけるようにするには

どうすれば良いのか、

様々な分野の専門家がどのように連携し、

協力しながら子どもをサポートしていけば良いのか、

こういったことを、

実験や調査、研修活動を通して、

現場の先生方とともに検討しています。

このように、外国人を対象とした司法面接、

心身のケアを射程に入れた司法面接、

様々な取り組みが行われています。

私たちは研究者として、

実務家の先生方、市民の皆様、お子様、などの協力を得て、

こうやって研究を進め、

司法面接を

より良いものにしていくわけですけれども、

まだ充分とは言えません。

実際、

司法面接室に来られても、強い疑いがあったとしても、

子どもさんは中々お話をしてくれない。

ということもあります。

その背景には

「親御さんを守りたい」「自分に責任がある」「恥ずかしい」、

そんな気持があったりする。

というのも、事実です。

近年の研究は、

司法面接の取り組みそのものもたいへん重要ですけれど、

これを支える周囲の大人。

たとえば、子どもさんが

「こういうことがあるんだけど」「言わないでね」

と打ち明けてきた時に、

それを受け止め、

そして、大人一人で解決しようとしないで、

専門家につなぐ。

つなぐ時に、

「大事なことだからみんなで一緒に考えようね」

こんな風にして支えてくださる、大人の方たち。

また、地域全体での取り組み。

暴力はいけないことだ。

子どもが安全に生活できる社会を作っていこう、

こういった取り組みも有用である。

ということが知られています。

こういうわけで、

私たちとしましては、

研究者と市民・子どもさん・実務家・専門家、

みんなで

手を携えて安全な社会を作るっていうことが

できるといいなと思います。

みなさん、

子どもの負担を最小限に抑え、

子どもの体験をありのままに話してもらう

「司法面接」が

今なぜ必要なのか

ご理解いただけいただけたでしょうか?

司法面接は、

児童相談所、警察、検察などの

多機関の専門家チームが連携して行いますが、

この取り組みをさらに進めて行くには、

みなさんのご理解が必要です。 

司法面接について、

もっと詳しくお知りになりたい場合や

専門家向けの研修情報については、

司法面接支援室の

ホームページをご覧ください。