報告

200961日()

アメリカ児童虐待専門家協会(APSAC)司法面接トレーニングに参加しました。

2009年6月1日から5日まで,米国のワシントン州シアトルで行われた,アメリカ児童虐待専門家協会(The American Professional Society on the Abuse of Children : APSAC)主催の司法面接研修に参加しました。APSACは,児童虐待,家庭内暴力に直面する子どもやその家族に関わる専門家に教育や情報提供を行っている機関です。
 研修は,ワシントン州立刑事裁判トレーニング委員会(WA State Criminal Justice Training Commission)の建物で行われました。5日間計40時間のプログラムでは,司法面接法やプロトコルの理論,その背景にある学術的知識,面接手続き,米国の児童虐待の現状や福祉,司法システムについての講義をはじめ,面接官が裁判で証言するなどの状況を想定した法廷での応用的な問題について取り上げた講義も行われました。
 
研修参加者:今回の6月の研修には,米国の12の州に加え,3カ国(ギリシャ,シンガポール,日本)から39名の専門家が参加しました。参加者の主な職種は,司法面接官(12名),ソーシャルワーカー(4),警察(3),医師(2),心理学者(セラピスト,研究者)(6),子どもアドヴォカシー・センタースタッフ(2)などでした。
 APSACが研修に先がけ,6月の研修参加者に事前に行ったアンケート調査の結果によると,参加者のうち(27名が回答),児童虐待領域に関わっている経験年数が1年未満であるのが22%,1-5年が37%,5-10年が7%,10-20年が26%,20年以上が7%でした。また,面接官として司法面接を実施した回数では,未経験が37%,7-15回が26%,28-90回が11%,100-180回が15%,500-900回が7%,1500回以上が4%でした。これまでの面接の記録方法については(24名が回答),21%がメモのみ,33%がビデオのみ,46%がビデオとメモの両方を用いていました。
 さらに,参加者の(24名が回答)96%が多職種連携(Multidisciplinary Teams;MDT)アプローチを用いているということでした。MDTとは,司法面接を実施する際に,面接を1度で済ませるために,そのケースに関わる多領域の専門家が面接に立ち会い(観察室で観察する),その情報をもとに連携を取って動くというチームアプローチです。また,法廷で専門家として証言した経験のある人が(26名が回答),刑事裁判(criminal court),家庭・地方裁判所(juvenile/civil court)共に27%でした。以上のアンケートの結果,いかに米国で司法面接が浸透しているかということが解ります。また,今回のような司法面接法の研修を受けにくる参加者の多くは,すでに現場で司法面接を実施・経験している人が多いということになります。今回のようなトレーニングは,面接法の技術を取得するということだけではなく,自分のスキルアップ,また,情報のアップデートのために,実務と並行してトレーニングを積んでいくという目的もあるのだと感じました。
 
研修の講師陣:研修のプログラム・マネージャーのパティさんは,1980年から,ワシントン州の検事として,多くの子ども虐待や性的暴行に関するケースに関わり,1987年から1994年までの7年間は,米国検察研究所(American Prosecutors Research Institute)の国立児童虐待刑事訴追センター(National Center for Prosecution of Child Abuse;APRI)で第1ディレクターを務めた経歴を持っておられます。またその後,米国司法省の子ども組織的宣伝セクション(Child Exploitation Section)において,連邦政府の公判検事として働き,現在は,研修が行われたワシントン州立刑事裁判トレーニング委員会において,子どもの虐待トレーニングプログラムのマネージャーとして,警察官やその他の専門家へのトレーニングを行っておられます。その他,弁護士,トレーナー,そして,子どもの虐待に関する取り調べや起訴と関連する問題についてのコンサルタントの肩書を持ち,このAPSACでは,子どもの司法面接に関するトレーニングクリニックを統率しています。
 5日間の講義では様々な経歴を持つ講師が講義を行いました。医療ソーシャルワーカー(MSW),資格臨床ソーシャルワーカー(LCSW;修士号を取得した臨床ソーシャルワーカー),児度虐待を専門としたユニットの巡査部長,警察に所属する司法面接官,地方検事,弁護士,法廷通訳の専門家などです。MDTの進んでいる米国では,領域の違う講師たちが様々な情報を共有しており,講義を聴くだけで,「連携」というものを本当に重視しているのだということが解りました。虐待専門ユニットの巡査部長が講義の中で話された内容で,「他の人に任せるということができる専門家になることが大切」というお話がとても印象的でした。他の人に面接させるということ,他の人に任せるということは,専門家であればあるほどなかなか難しいことです。いくつもの領域が一緒に働くとなればなおさらです。警察は警察官が,医者は医者が,児童保護局(Child Protection Service; CPS)は保護司が,自分たちが面接を行った方がよいとそれぞれ思っていることがあるかもしれません。ですが,もし子どもにとって,自分たち以外の人が面接する方がよいということがあれば,一歩下がって他の人に任せるのが必要ということでした。「面接者のプライドを守るための司法面接ではなく,子どもを守るための司法面接だということを忘れない」というお話からも,関係機関や関係領域がお互いに尊重し合いながら仕事をしているのが伝わりました。
 
研修資料:研修では,講義で使われたスライドの資料,専門書,学術論文や参考資料のPDFが入っているCD-ROMが研修の資料として配られました。研修では面接法の技術だけではなく,その理論や背景にある研究などの情報も知ってもらうという目的があるのだということが,配布された資料の種類や量から伝わりました。

ロールプレイ:研修の3日間は半日,8名ずつのグループに分かれ,子どもに扮した本物の役者さんを相手にロールプレイを行いました。ここでは,参加者がそれぞれ,役者さんを相手に,25分間面接を他のグループメンバーの前で実施します。ロールプレイでは,様々なケースが想定され,事前に自分が担当するケースについて被面接者の名前,年齢,発達レベル,家族構成,虐待の通告者,面接に至った経緯などについての簡単な情報がもらえます。自分の担当するケースについて,面接計画を立てて来るのが宿題です。被面接者役の役者さんには,面接者が持っていない虐待の詳しい内容についてのシナリオが渡されています。被面接者役の役者さんは,普段から役者をお仕事にしている本物の役者さんなので,部屋に入ってくるときから演技が始まっており,面接しているうちに本当に子どもと話をしているような気持ちになりました。ケースは,文化的な問題,発達障害の問題,十代の被面接者,幼児の被面接者,家族構成の問題など様々な要因を取り上げていました。また,面接を行っていないメンバーは,単に面接を見ていればいいというだけではなく,それぞれの面接者に対して,評価を行い,評価シートにその内容を記入します。これが,いわゆるピアレビューの役割にあたることになります。評価シートには,面接者の態度,ペース,発達的に適切な面接だったか,客観性,オープン質問をどの程度用いていたか,文化的に配慮すべき点に対応できていたかなどについて記入し,評価します。実施した面接は録画され,研修の終わりに研修者に配られました。

 今回このAPSACの研修に参加することで,本プロジェクトの足りない部分,改善点,また,プロジェクトで今後取り上げる必要がある部分などが具体的に見えてきたように思います。さらに,日本には日本独自の文化,司法システム,実務のシステムがあるため,海外の使える部分は取り入れ,日本独自の司法面接法やそのトレーニングについては,今後基礎研究や事例をもとに開発発展させていくことが大切だということに改めて気づく機会となりました。

文責(上宮)
滞在したホテルの窓から見えるマウント・レーニア
トレーニングの様子
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司法面接支援室 : 立命館大学 ・ 大阪いばらきキャンパス(OIC) ・ OIC総合研究機構 / 総合心理学部