報告

201021日()

サンディエゴ「性虐待の取り調べトレーニング」に参加しました。

 1月25日から29日まで,カリフォルニア州,サンディエゴで開かれた,「性虐待の取り調べ」研修に参加しました。この研修は,米国司法省の未成年侵犯防止局(Office of Juvenile Justice and Delinquency Prevention),フォックスヴァリー高等専門学校(Fox Valley Technical College)により提供された,36時間のプログラムでした。この研修は,第24回子ども・家族虐待に関するサンディエゴ国際会議(International Conference on Child and Family Maltreatment)の開催期間に行われた研修プログラムです。研修では,アメリカの性犯罪,児童虐待における警察の捜査,取り調べの現状を,様々な領域の講義を通して学ぶことができました。

研修参加者:今回の研修には,25名程の専門家が参加しました。参加者の主な職種,所属機関は,警察(12名),子ども保護局-日本で言うところの児童相談所(Child Protective Service(CPS), Department of Child and Family Service(DCFS), Department of Health and Human Service(DHHS)等;7名),家庭裁判所調査官(Juvenile Dependency Investigator;2名),被害者支援サービス(Victims Assistance Service;1名),その他(3名)でした。
 アメリカ以外では,南アフリカのBethany House Trustという,危機的状況にある子どものための多職種介入(Multi-Disciplinary Interventions for Children in Crisis) NPO団体から2名の参加者がいました。

研修の講師陣:5日間の講義では,警察OB,資格臨床ソーシャルワーカー(LCSW;修士号を取得した臨床ソーシャルワーカー),弁護士など様々な肩書をもつ専門家が講師となりました。
 
研修内容:今回の研修は,「性虐待の取り調べ」というタイトル通り,証拠収集,証言の聞き取り,取り調べの仕方,反対尋問に備えるなど,虐待の捜査の一連の流れに関するトレーニングが行われました。
 研修初日には,簡単なペーパーテストがありました。テストは,虐待の傷や痣の見分け方,証拠収集の仕方,多職種連携の実施方法,裁判で気をつけること,取り調べの仕方などに関する選択式の質問に回答するというものでした。このテストは,研修の最終日にも実施され,研修の内容がちゃんと理解できているかが測定されました。また,研修から半年ほどが過ぎた頃に,このプログラムのアンケート調査が実施され,研修で学んだ内容をどの程度自分が実務で活用しているのか,また,所属機関でこの研修の情報をどの程度共有しているのか,そして,研修の影響による変化が見られるかなどが調査されました。研修プログラムの効果測定にも非常に力を入れていることが解ります。
 研修の中で,印象に残っている点をここではいくつか紹介したいと思います。

【児童虐待における多職種連携捜査(Multi-Disciplinary Investigation)の実施(2日目午後)】
 多職種連携捜査(MDT)は,アメリカでは当たり前のように行われているようでした。その目的は,何度も面接を行うことを軽減すること,子どもへのシステムが与えてしまうトラウマを最低限にとどめることにあります。
 今回の研修によれば,MDTの中心となるのは,多くの場合,子どもアドヴォカシー・センター(Child Advocacy Center; CAC)です。通常のMDTの中心メンバーは,警察,CPS,医療チーム,検察,CAC,セラピストです。しかしこれが,死亡ケース,虐待者が家族内にいる場合の性虐待,ネット犯罪の場合にはチームが拡張されます。
死亡ケースでは,検視官,科学捜査班(Crime Scene Investigation; CSI),救急救命士が含まれます。虐待者が家族内にいる場合の性虐待では,CSI,救急救命士が含まれます。ネット犯罪の場合は,さらに,子供に対するインターネット犯罪対策本部(Internet Crime Against Children Task Force; ICAC),地元のFBI,米国郵便局調査部(U. S. Postal Inspection Service),デジタル鑑識(Computer Forensic),全米行方不明・被搾取児童センター(National Center for Missing and Exploited Children; NCMEC)が含まれるようになるそうです。ここまで上げてきただけでも,かなりの数の機関が一つ一つのケースに関わっており,連携を取り合っていることが解ります。
 MDTでのCPSの役割は,インテイク(ホットラインからの通告),虐待通告のスクリーニング,支援が必要な家庭の特定,リスクアセスメント,ケースプランニング,ケースの終結です。
 医療チーム,また性暴力被害者支援看護師(Sexual Assault Nurse Examiner; SANE)は,医学的診断を行います。医学的診断では,怪我はないか,性器などの状況に関する法的な査定・診断を行い,証拠となるようなものがあれば,採取・保管します。また,妊娠,STDの可能性があればその処置を行います。そして,患者,アドバイスを求めてきた機関に診断の結果,見立てを説明します。
 MDTでは,被害者の証言,その他関係者の証言,医学的証拠,身体的証拠,被疑者の証言,その他の背景情報,生育歴などを基にチームで判断を下します。
 今回の研修では,ミネソタ州のダルースの警察署から研修を受けに来ていた刑事のクリスさんと研修後に個人的に話をする機会がありました。クリスさんの勤める警察署では,多職種連携捜査が日常的に行われているそうです。多職種チームは,CAC,警察,検察官,弁護士,医師,CPSで構成されているそうです。メンバーでは,警察官,CPS,医師が司法面接の訓練を受けているということでした。このチームでは,警察か,CPSのどちらかが面接を行い,CACはこの多職種チームをコーディネートするという役割を担っているそうです。
 クリスさんの勤める地域の多職種連携で特徴的なのは,メンバーに検察と弁護士の両方が入っているということです。これは,アメリカでも珍しいチーム構成なのだそうですが,これが非常に効果的だということです。なぜならば,弁護側は裁判では反対尋問を行う立場にあります。その相手側の立場の専門家が,司法面接を実施する際に,反対尋問でおそらく取り上げられる可能性がある点についてアドバイスをしてくれるのだそうです。もちろん,このチームの弁護士は裁判での相手方の弁護士とは関係のない立場の人がチームに入るそうです。そして,司法面接では,面接の最後の段階で,観察室のメンバーが子どもに聞きたい事を質問し,その内容が面接者が耳につけているイヤーピースを通して面接者に伝えられます。その質問を聞いた面接者が,その質問を行うことが可能かどうか(司法面接として適切かどうか)判断し,可能な場合は子どもに聞くというような仕組みになっているそうです。また,ケースのレビューは全て活字にされ,書き起こされます。そして,半日かけて,メンバーが集まり,ケースに関する反省会,検討会が必ず行われるということでした。
 
【児童虐待ケースにおける子どもへの面接法(3日目午前)】
 この講義の講師の先生は,偶然にも,昨年2009年6月1日から5日まで,米国のワシントン州シアトルで行われたアメリカ児童虐待専門家協会(APSAC)司法面接トレーニングで教えていただいた先生でした(ニューズレター第2号をご参照ください)。今回は,捜査や取り調べに関するトレーニングでしたので,前回のAPSACの研修とは異なる視点で司法面接について聞く,とても貴重な体験となりました。
 まず,司法面接は捜査の一部であるということ,面接が全てではないという話がありました。そのため,面接者は何を聞き取ってほしいのか事前にチームのメンバーに確認しておく必要があります。例えば,捜査に役立つような情報,位置関係,その他の目撃者・被害者など。また,司法面接はプライベートではなく,公のものであるということを常に考えていないといけないということです。様々な立場のチームメンバーで共有するための情報を聞き取る必要があります。
 さらに,面接を始める前に,警察がかなりレベルの高い証拠(物証,医学的証拠,目撃証言など)を手に入れている可能性があります。重要なのは,これらの証拠に左右されずに面接をすることです。そのためにも,あらゆる可能性について考えておく必要があります。
 また,虐待が複数回にわたるようなケースでは,子どもから開示が合った場合に,最近に一番近い出来事について話してもらうという手続きがあります。これまでの研修では,最近の出来事の方が,詳細に覚えている可能性が高いためなど,記憶の問題と絡めて,研修では説明を受けることがあります。今回の研修では,記憶の問題はもちろんのこと,同時に,最近の出来事であれば,警察が収集できる証拠が残っている可能性が高いためであるという説明がありました。
 そして,子どもの証言が正しいことを示すためには,その証言を支持するための客観的な証拠を収集する必要があります。そのため,司法面接は証拠となりそうなものを聞き出す必要があります。例えば,コンドーム,ローション,その他の道具など。時には,司法面接も汚い考え方(think dirty),犯人と同じように考えてみて,どのように行動するだろうか,どのような証拠を残すだろうかと考えることも必要だという話でした。
 同時に,警察からの要望であったとしても,司法面接として適切ではない場合は,「それはできない」「それは,こういう理由で聞けない」ということをはっきりと伝えなければならない時もあります。
 このような点は,前回のAPSACの研修では出てこなかったような司法面接を別の側面から見た内容だと感じました。
 
【『捜査に役立つ資料,機関の紹介』と『取り調べの仕方』(4日目午後,5日目午前)】
 今回の研修で,新しいと感じたのは,『捜査に役立つ資料,機関の紹介』と『取り調べの仕方』に関する講義でした。特に,『捜査に役立つ資料』についての講義では,捜査に必要な情報を提供してくれるような機関,連携できそうな機関を紹介するという内容の講義を3時間ほどかけて行うということがとても新鮮でした。この講義では,捜査に必要な研修を受けられる機関,過去の事件のデータベースなどに基づき情報提供をしてくれる機関,捜査のサポートをしてくれる機関,捜査に必要なガイドラインを提供している機関,反対尋問に必要な情報を提供する機関,そして,これらの機関の連絡先やホームページを実際のケースでどのようにこれらの機関を使ったかを説明しながら紹介してくれます。
 講師の先生の話では,警察ももっと機関の外のリソースを使って,それを捜査に取り入れる必要があるとのことでした。そして,何より驚いたのは,このように利用できるような機関が数えきれないくらい存在するということです。お互いに事件解決のためには,情報提供を惜しまないということ。もちろん,守秘義務の壁などもあるとは思うのですが,事件解決のためには,その壁を一時取り払わなければならないこともあるということを感じました。
 また,普段はあまり聞くことのできないような講義もありました。それは,取り調べでどのように自白させるかということに関する講義でした。この講義に関しては,普段は触れることのないような話でしたので,非常に面白く勉強することができました。

 5日間の研修を通して,『性虐待の捜査』という視点から司法面接,多職種連携を学ぶことができたことは,非常に貴重な体験となりました。また,改めて,司法面接は,司法面節単独で存在するのではなく,様々な機関との連携の中で初めてその効果,役割を発揮するのだと感じました。面接はあくまで,子ども虐待ケースの通告から解決,処遇までの流れの中の一部分であり,しかし,その流れの方向性を決める重要な情報を収集する起点となる場面だと思いました。そして,司法面接という場面が,様々な関係機関が一同に集い,共にそのケースについて考える場を提供するような場面となれば素晴らしいなと感じ,今後の可能性を再認識する機会となりました。

(文責 上宮)
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