報告

201065日()

イスラエルを訪問し,司法面接事情を視察しました。

 数ある司法面接法のなかでも,多くの実証・評価研究がなされているのが,NICHD プロトコルです(北大でもこのプロトコルを用いて研修を行っています)。NICHD プロトコルは1990 年代に, 米国NICHD(National Institute of Child Health and Human Development)で, M. Lamb 教授(現在ケンブリッジ大学教授)らが開発しました。
 イスラエルは1998 年にNICHDプロトコルを国として導入し,以来,年間5000 − 8000 件の面接が行われています。いかにしてこのようなことが可能になったのか,どのように実施されているのかを,2010年5 月末に室員の中野育子医師と仲とで現地で調査してきました。
調査内容は次の通りです。

① 司法面接が用いられるようになった経緯
② 誰が,どこで,誰に対し,どのような事案において,司法面接を行っているか。
③ 司法面接の研修はどのように行われているか。
④ 司法面接の研究はどのように行われているか。
⑤ 司法面接をめぐる多職種連携アプローチ

 以下,それぞれについて簡単にご報告します。なお,これらの情報は,ハイファ大学のハーシュコヴィツ教授,テルアビブで司法面接官のトレーニングにあたり元ハーシュコヴィツ教授の研究補助員でもあるミハイル・ブレイトマン氏(社会福祉省職員),ハーシュコヴィツ氏のもとで学位論文を執筆中のロニット・ズール氏(社会福祉省職員)などから得たものです。

1.司法面接が用いられるようになった経緯 
 1955 年に子どもの捜査(child investigation)に関する法律ができ,子どもへの面接は警察でない人が行うことになったそうです。初期においては,教師が行い,警察が関与するといった方法で行っていましたが,うまくいかず, 1984 年に,保護観察にあたる職員(probation officer:PO)が子どもへの面接を行うことになりました。そして,この保護観察の部局の一部に子ども捜査のユニットができたとのこと。1999 年,保護監察と子ども捜査の部局が分かれ,保護観察官とは別の子ども捜査官(Child Investigator:CI)が司法面接を行うようになりました。
 こういった動きのなかで,イスラエルにNICHD プロトコルを導入したのが,この2月に北大でも講演をされた,ハイファ大学のハーシュコヴィツ教授です。1990 年代,ハーシュコヴィツ氏は,ポスドクとしてアメリカのNICHD に就職。そこでNICHD プロトコルの開この施設は,2002 年,国外に在住するユダヤ人資産家の寄付により,アメリカの子どもの人権擁護機関(Children’s AdvocacyCenter)をモデルとして作られました。「一つの屋根の下で福祉,警察,病院,弁護士が恊働できる場」を目指し,司法面接のための面接官は社会福祉省から,警察は警察署から,ソーシャルワーカーは市役所から,医者は近隣の病院から出張してきます。毎年,新たな子どもが450 人,延べ1200 人(1 日に4,5 人)の子どもが訪れます。6割が5 − 10 歳で,その7 割は「知っている人」による身体的,性的被害ということでした。
 この施設と社会福祉省との活動の違いは,前者では警察が司法面接官に面接を要請し,面接官は面接のみの仕事をするのに対し(捜査することはしません),後者では司法面接官, 警察,ソーシャルワーカーが恊働し,被疑者を逮捕することもある,ということでした。また,医療的な診断も行います。
 イスラエルという国ができたのは1948 年。古いけれども新しい国であり,多くの先進的な試みが行われています。「被疑者,被害者の言葉は一言一言が,本人の身に関する重要な証拠となる。これは正確にとっておく必要がある。面接を行う人は『判断(ジャッジ),評価』することなく,情報を伝えなければならない。いわば,仲介者(intermediator)である」と話してくれたロニット・ズール氏の言葉が心に残っています。開発に携わり,帰国後,イスラエルの面接官にプロトコルを実験的に使ってもらったそうです。研究の一環としてということでしたが,使用した面接官らがその効果を実感し,国として取り入れることとになりました。

2.誰が,どこで,誰に対し,どのような事案において,司法面接を行っているか
 現在,司法面接は,社会福祉省(Ministry of Social Service:ここに保護観察と子どもの捜査が入っている)において,子ども捜査官が行っています。面接官の数はテルアビブでは30 人,全国で60 人おり,昨今は対象範囲が増え,ウエィティング・リストも長くなっていることから,面接官を100 人くらいに増やす計画があるそうです(ちなみにイスラエルの人口はおよそ700 万人。北海道は550 万人です)。
 面接官は,警察からの依頼を受けて,面接を実施します。例えば,子どもが虐待を受けていると教師に訴えたとします。教師には通報義務があり,ソーシャルワーカー(市の管轄である)に通報します。ソーシャルワーカーは「家庭のことがらに関する特別なソーシャルワーカー(special social worker for family matter)」に通報し,ここから警察に連絡がいきます。面接官への連絡が来るのは,常に警察からとのことでした。
 当初は,司法面接は子ども(14 歳未満を指します)の被害者に対してのみ行われていましたが,現在では対象が拡大し,以下の人たちに対する面接も行われています。(a) 家庭内暴力の被害者である子ども,(b) 性的虐待,性暴力の被害者である子ども,(c)他者の死(殺人等,未遂も含む)を目撃した子ども,(d) 他者への家庭内暴力を目撃した子ども(医療的な怪我がある場合),(e)知的障害,発達障害のある大人(ここには被疑者も含まれます),(f) 性犯罪の被疑者である子ども。イギリスでも2007 年より,知的障害,発達障害のある大人に対して司法面接が行われるようになりましたが,イスラエルでは,被疑者に対しても行われるというところが特徴的です。

3. 司法面接の研修はどのように行われるか
 ブレイトマン氏は,司法面接官の訓練にあたっています。6 −11 人のグループに対し,記憶,言語発達,面接法に関する理論,法律等の授業を行い,面接の実施,特に自由報告を得る方法や,オープン質問/クローズド質問の区別などをロールプレイをしながら学んでもらいます。この他,研修生は,大学での120 時間の授業(法律や子どもの証言の信用性の査定などについてであり,通年2 コマにあたります)やスーパーバイズも受けるということでした。

文責(仲)
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司法面接支援室 : 立命館大学 ・ 大阪いばらきキャンパス(OIC) ・ OIC総合研究機構 / 総合心理学部