報告

200976日()

ソルトレーク市子ども司法センター(CJC)を訪れました

2009年7月6日,ユタ州ソルトレーク市のCJC(Children’s Jusice Center:子ども司法センター)を訪問し,面接を見せていただき,3日間の研修も受けました。以下,CJCの歴史や施設,そこでの面接について紹介します。

施設の概要:この施設は,Child Advocacy Center(CAC:チャイルド・アドヴォカシー・センター:子どもの権利の代弁機関)と同様の機能をもつ施設であり,郡によって運営されています。案内をしてくれたヘザーさん他,職員は郡により雇用されていますが,給与の一部はファンドから支払われてもいるとのことでした(つまり雇用は半官半民ということになります)。CJCの業務は,警察,検察,医者,看護士,カウンセラー,被害者支援者,CPS間のギャップを埋める(つまり関係をとりもち,多職種連携を可能にする)ことです。また,司法面接の訓練を行い,面接を支援し,子どもを見守ることもCJCの仕事です(現在3万件ほどフォローしています)。訓練のフォローアップとして,面接の書き起こしを送ってもらい,評価シートによって評価することもしていますし,定期的に発行するニューズレターには,研究の紹介やこういった評価も載せています。

CJCの歴史:1980年代には警察と福祉の連携はなく,虐待事例に関しても,警察と福祉は同じ子ども,家族に独立に対応していました。この頃,グレーテ・ピーターソンという女性が2人の子どもの性虐待事件の陪審員となりました。子どもたちは反対尋問で戸惑い,説明ができず,二次被害を受けたといってもよい状態でした(最終的に,この事件では,他に証拠があったにもかかわらず,合理的な疑いを越えるだけの証拠がないとして被告人が無罪となりました)。グレーテさんは,司法が子どもにとってフレンドリーではないということを目の当たりにし,政府に進言。アラバマ州にあった,当時全米初のチャイルド・アドヴォカシー・センターに行き,情報収集をしました。その後,ユタ政府はCJCを設置する法律をつくり,1991年,グレーテさんは政府より資金を得て最初のCJCを作りました(それが,研修が行われた場所です)。現在,ユタ州には15のCJCがあり,全米には500のチャイルド・アドヴォカシー・センターがあります。ヘザーさんのいる施設は1997年に作られたとのことでした。

 CJCの設備:CJCはユタ州に15カ所あります。私が訪れたのは2カ所であり,1カ所はヘザーさんが働くセンターであり,もう1カ所は研修が行われたセンターであした。いずれも,「おばあちゃんの家」のように,暖かい感じにしつらえられています。
ヘザーさんのいるCJCの内部を紹介しましょう。正面玄関から入ると,手前の右側には受付があり,来所者はまずそこに行くことになります。入り口の正面は大きなホールになっていて,3組の大型のソファ・セットがあります。手前はティーンエイジャー用のソファ・セットで,本棚に本やTVゲームなどが用意されています。右奥のソファ・セット,左奥のソファ・セットはより小さい子どものための場所で,ドールハウスや大きなおもちゃが並んでいました。ホールの奥には裏庭に出るドアがあります。裏庭は広い芝生になっていて,花壇やボーイスカウトがつくった小さな家や滑り台などがあります。
部屋に戻りますと,玄関の左側には長い廊下があり,向かい合わせで2つずつ,4つの面接室があります。それぞれソファが4個置ける程度の小部屋であり,壁紙や置物にちなんで「ジャングル」「ラビット」「ジラーフ(きりん)」,「ウエスト(西部)」と呼ばれています。面接を受ける子どもが好きな部屋を選びます。また,廊下には医務室,トイレ,クロゼットなどが並んでおり,医務室には診察台があります(身体的虐待,性虐待等の被害確認も行います)。設置当初は医務室はなかったのですが(この施設は病院から20キロくらいであり,アクセスがよいため,この施設から病院へとすぐに行ってもらえると考えていたとのこと),病院に行くように伝えても実際には30%しか行かないことが判明。そのため,現在では医務室も設置し,週4日,スタッフが来るとのことでした。
さて,ホールの右側にはモニター室が2つ並んでいます。1つに2部屋分ずつ(ジャングル,ラビット)(ジラーフ,ウエスト)のセットがあり,バックスタッフはここで面接を視聴します。この他,事務室,キッチン,会議室もあります。会議室では毎週水曜日に,ケースカンファレンスが開かれるとのことでした。会議室の隅では大学生のインターンが,マニュアルにそって,1,2ヶ月後のフォローアップの電話をしていました。
なお,この施設は月〜金,8時〜5時が業務時間ですが,この時間帯に来られない親子もいるので水曜は7時までやっているとのことでした。

面接:ユタ州には15の警察署があります。これらの警察署の警察や,看護士,医者等,約100人が面接の訓練を受け(またフォローアップも受け),NICHDによる面接を行っています(従って,面接はたいてい刑事が行います)。年間1500人の子どもが面接を受けますが,その85%は性虐待であり,疑われる加害者は兄弟を含む家族,教師,ボーイスカウト等様々です。なお,ユタ州では,服の上から胸やプライベートパートを触ることもレイプとみなされます。
面接する子どもの40%は加害者です(きょうだい間の事件が多く,多くの事例において,親は,被害児の親でもあり加害児の親でもある,ということが多々あります)。加害者が大人であれば警察で取り調べますが,子どもの場合はここで行います。ここの方が,子どもは話しやすいですし,加害社である子どもは同時に被害者である場合もよくあるからです。その後,少年事件の子どもは少年院でカウンセリングを受けたり,通所のカウンセリングを受けたりします。CJCでは,家族に少年審判の説明をしたり,加害児を分離するために(加害児は家においておけません),おばあさんの家等の手配したりします。
毎週水曜日行われるケースカンファレンスでは,その週の事例(約20ケース)を検討します。うち60%が起訴されますが,ほとんどはどこかで取り下げられたり「有罪の主張(被疑者が有罪を認める)」がなされます。よって,裁判になるのはごく少ないとのことでした。

NICHDプロトコルの導入について:このCJCではNICHDプロトコルを使っていますが,そのきっかけは以下の通りです。心理学者であるM.ラム先生(現在は英国ケンブリッジ大学教授:昨年北大で講演していただいた先生です)はユタ大学にいたことがあり,ユタの警察に研究のフィールドとなってくれるよう依頼しました。この施設(CJC)がその依頼に応えたことがNICHD面接を行うようになったきっかけです。1997年に行われた最初の研究では,ベテランの警察官に訓練を行い,効果を測定しました。月一度,フィードバックも行い,NICHDによる面接技能は向上しましたが,残念ながら,半年後には元にもどってしまうという結果でした(しかし,技能を習得した当時の警官で今は退職している人たちが今回の研修のインストラクターとなっていました。まさにレジェンド!という感じでした)。その後,2001年の研究では,新任の警察に訓練を行いました。この人たちにとってはNICHDが初めての面接であったので,習得はうまくいきました。しかし,フォローアップは必要です。
現在,ユタ州にある15のCJCのうち13の施設がNICHD,2つの施設がFinding Words(RATAC)(より心理臨床的な面接法)による面接を行っています。NICHDプロトコルは厳格だという批判もありますが,この通りやることがよい結果をもたらします(そのことは,研究成果,エビデンスにも示されています)。

文責(仲)
米国ソルトレイク市の面接室
米国ソルトレイク市の面接室(カメラ)
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司法面接支援室 : 立命館大学 ・ 大阪いばらきキャンパス(OIC) ・ OIC総合研究機構 / 総合心理学部