Q and A

2011610日()

仲真紀子Q & A

 ここでは,研修や問い合わせ等で質問されることの多いことがらについて仲の考えを述べます。どのような問いにも「正解」はなく,最善,あるいは次善の策を選んで行く,ということになります。基本は事実確認における原則(誘導をかけずに,できるだけ正確な情報を得る)に従うことです。そして,やむを得ない場合は,説得力のある理由のもとで,次善の策を取る事にすればよいと思います。


Q
性虐待が疑われる子どもに司法面接を行ったところ,ネグレクトについては報告したが,性虐待については話さなかった。この場合,再度,面接を行うことはできるでしょうか。
A
原則として,面接は1 度だけを心がけます。面接を繰り返すと,前の面接で混入した誤情報(面接者のクローズド質問に含まれていた情報や,本人の推測等)が,次の面接で「事実」であるかのように報告されることがあります。また,記憶の汚染とまではいかなくとも,報告の誤りや変遷(前は「昼」と言っていたのに,次は「夕方」になる等)が生じたり,精神的な負担をもたらすこともよく知られています。予想していなかったことが出てこなかったというだけの理由で面接を繰り返すことはよくありません。
 しかし,どうしても面接を複数回行わなければならないケースもあるでしょう。たとえば,子どもが話さなくても,次に面接したきょうだいが「この子もされていた」などと言った場合や,子どもが「この間は話せなかったが,ぜひ聞いてほしい」などと言ってきた場合は,新たにそのことについて面接する必要があるかもしれません。
 そのような場合は,「同じ」出来事を繰り返し話してもらうのではなく,「以前は話してもらわなかった出来事」について,話してもらうことが重要であるように思います。子どもに,面接を繰り返す理由を告げることも必要でしょう。
 なお,オープン質問により,子どもに自発的に話してもらう面接であれば,繰り返しても負の影響は少ないという研究もあります。情報が出る,出ないに関わらず,誘導のかからない面接を目指す事が大切だといえます。

Q
 面接の終わりの方で,重要なことが開示された場合,時間を延ばしてでも聞いた方がよいでしょうか。それとも後日改めて面接をする方がよいでしょうか。
A
 子どもはしばしば前に話したことを後で撤回したり(「あれは思い違いだった」「嘘だった」等),忘れてしまったり,言うことが変ったりします。したがって,子どもに疲れがない場合は,最重要と思われることがでてきたならば,そのときに聞いておく方がよいでしょう。そうすることで情報を逃すことを防げます。これは「聞いておく」ことの利点です。
 しかし,「聞かないでおく」ことの利点もあると思います。それは,改めて子どもが話そうとしたときに,以前の面接による汚染がないことです(ただし,面接が繰り返されるだけで迎合し,真偽の判断が難しい情報を出してくる子どももいます)。
 どちらが良いのかは,状況や子どもによるでしょう。原則としては,聴く。しかし,難しかったら,深追いしないで別の機会を設け,ということしかないように思われます。
 しかしいずれにしても,性虐待の可能性が強い場合は,「面接の計画」の段階で,「ここまでで何も出てこなかったら,こういうかたちで聞いてみよう」と質問を考えておくことが有用だと思います。
面接時間はどうしても長くなりがちです。年齢× 5 分という目安のなかで,この時点になったら(誘導せずに)こう聞いてみよう,と計画を立てておくのがよいでしょう。

Q
子どもが「加害が疑われる者」に対し愛着をもっている等で,話をしてくれないことがあります。そのような場合,どうすればよいでしょう。
A
司法面接は,話す意志がある子どもに,最大限誘導することなく話してもらう方法であり,話したがらない子どもに話させることはできません。ただ,いくつかの対処法が考えられます。

・保護できたならば,しばらく時間をおき(子どもが被疑者と離れ,安全が感じられるようになってから),司法面接を行い,事実確認をする(中立に,たんたんと・・・)。

・子どもが話してくれなかったら,「話してはいけないことがあるか」「話してはいけない理由は何か」「話したらどうなるのか」「話さなかったら,どうなるか」を尋ね,回答を待つ。

・期待する事柄がでてこなくても,子どもの安全が守られているかどうかの確認ができれば,それ良しとする。

・疑いとなった出来事の一部について,詳細を語ることなく,尋ねる(しかし面接者から情報を提供すると,子どもを誘導したことにもなり,リスクがあります)。

Q
よく,バックスタッフには担当福祉司は入らない方がよい,といわれます。どうしてでしょう。
A
 いくつかの理由を挙げることができます。子どもと担当福祉司の関係性が強く,「この人だけには知られたくない」といった心理が働くことがあります。また,子どもの報告内容により,ケアのあり方が変わるとすれば(たとえば,よりひどい出来事があったとなれば,より厚いケアが提供される等),その利益のために子どもの報告が変わる可能性があります。そういった危険性があるため,研修では,一般には担当福祉司は入らない方がよいと述べています。
 しかし,担当福祉司が入らないと絶対的に人手が足りない,面接の過程で担当福祉司の知識が必要になる可能性がある(面接前には予想できないような,子ども側の事情が語られる可能性があり,担当福祉司に照会する必要がある等)などの理由により,担当福祉司が入るースもあり得ると思います。
 どのようなことでも,理由が明確であり,いろいろな要因を考慮,子どもの安全を守るためにはやはりこうした方がよい,という結論になったのであれば,次善の策を取らざるを得ない場合もあると思います。


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司法面接支援室 : 立命館大学 ・ 大阪いばらきキャンパス(OIC) ・ OIC総合研究機構 / 総合心理学部